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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)3398号 判決

一 原告が本件甲、乙各特許権の特許権者であること、右各特許発明の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、及び被告らが被告製品を製造販売していることはいずれも、当事者間に争いがない。

二 そこで、まず被告製品が本件甲特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。

1 前記当事者間に争いのない本件甲特許発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件甲特許発明は、次の構成要件からなる乾燥用自動車であると認められる。

A 自動車に附設した車室を、隔壁によつて乾燥室、ヒーター室及び計器室に区画し、その後端に乾燥室入口扉を開閉自在に設けること。

B ヒーター室内に設けた送風ヒーターとダクトを連通させたうえ、該ダクトの開口を乾燥室に臨ませること。

C ヒーター室に送風するモーターフアンと乾燥室から排気するベンチレーターを車室に設けること。

D 広い面積を占める遮蔽板と、該遮蔽板上部に遮蔽板に対して直角方向に取り付けられた乾燥室の横方向の長さにほぼ等しい長さの上横吊桿と該遮蔽板下部に該上横吊桿と平行に取り付けられた下横桿と、下横桿の遮蔽板から若干距離を隔てた位置にステイにより支持された車輪と、下横桿の先端に連設された支脚とを包含する乾燥室内外に出し入れ自在の吊り具を設けること。

E 該吊り具の遮蔽板が、乾燥室の前方に位置するように吊り具を乾燥室に収容すること。

2 そこで、本件甲特許発明と被告製品とを対比検討する。

本件甲特許発明では、吊り具に広い面積を占める遮蔽板が設けてあり、吊り具を乾燥室に収容する場合にはその遮蔽板が乾燥室の前方に位置するようになつているのに対し、被告製品には遮蔽板に該当するものがないから、被告製品は本件甲特許発明の構成要件D及びEを充足しない。

原告は、本件甲特許発明における遮蔽板は、その余の構成要素に比して本質的なものではないから、被告製品にそれがないとしても被告製品は本件甲特許発明の構成要件Dを充足すると主張する。しかしながら、特許請求の範囲に記載してある事項はその発明の構成に欠くことができない事項であるから(特許法第三六条第五項参照)、特許請求の範囲に記載されてありながら、なおこれを欠き得るという主張はそれ自体矛盾しており、とることを得ない。

さらに原告は、遮蔽板を具備しない被告製品の吊り具は、乾燥室内の熱効率を低下させるほかに格別の作用効果を有しないから、本件甲特許発明の構成の一部を技術的に省略したものにすぎず、しかも右省略は、技術的意義を持つていないから本件甲特許発明の構成要件Dを充足すると主張するが、別紙物件目録の記載に成立に争いのない甲第一号証の二(本件甲特許公報)、乙第一、第三号証を総合すると、被告製品は、本件甲特許発明の吊り具に該当するハンガーBに遮蔽板を備えていないから、乾燥室3の後部ドアー54を開放して被乾燥物の吊り替え作業をする際に乾燥室3内に、残留している湿気あるいは汚れた熱風が外部に排出され、次の乾燥作業を新鮮な熱風によつて行うことができるという本件甲特許発明では奏し得ない効果を有すると認められるから、原告の右主張も結局その理由がない。

3 以上のとおりであるから、他の点についての対比をするまでもなく被告製品は本件甲特許発明の技術的範囲に属しないことが明らかである。

三 次に、被告製品が、本件乙特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討する。

1 前記当事者間に争いのない本件乙特許発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件乙特許発明は、次の構成要件からなる乾燥用自動車であることが認められる。

A 自動車々台上に積載された乾燥ボツクスの乾燥室に、自動点火式バーナと該バーナにより発生した熱風を送風する送風機を具備するところの熱風送風機を収容した熱風送風機室を隣接して設けること。

B 右熱風送風機の送気口を開放ダクトの流入口に連結し、該開放ダクトの流出口は乾燥室に開放して熱風を乾燥室後方に向わせるようにしてあること。

C 乾燥ボツクス後部に開閉自在の後扉を附設し、該後扉若しくは乾燥ボツクス側壁後部に開閉自在の通風窓を設けてあること。

D 乾燥ボツクス内の適所に設けたサーモスタツトと前記自動点火式バーナとを連動させ、該サーモスタツトにより設定した最高温度において該バーナを点滅するように設けること。

E 前記送風機により、熱風と冷風を選択的に送風して前記通風窓から排出するようにしてあること。

2 そこで、本件乙特許発明と被告製品とを対比検討する。

本件乙特許発明の構成要件Cは、開閉自在の通風窓が「乾燥ボツクス後部…の…後扉若しくは乾燥ボツクス側壁後部」に設けられているのに対し、被告製品では、本件乙特許発明の乾燥ボツクスに該当する乾燥室3のうちの隔壁4より後の部分の後扉にもまたその側壁後部にも開閉自在の通風窓は設けられていないから、被告製品は本件乙特許発明の右構成要件を充足しない。

原告は、被告製品は乾燥室後部に開閉自在のドアーが附設され、該後部ドアーに通常は通風窓が設けられているから、本件乙特許発明の構成要件Cを充足すると主張するが、後部ドアーに通風窓が設けられているものを被告らが製造販売しているとし、それを判断の対象とするつもりならば、対象物の表示をそのようにすべきであるのに、対象物の表示はそのようになつておらず、今判断の対象とされているものは後部ドアーに通風窓が設けられていないものであるから、それを基礎としながらもなお通常は通風窓が設けられているから被告製品は本件乙特許発明の構成要件を充足するというような主張をすることは許されない。

3 右のとおりであるから、他の点についての対比をするまでもなく被告製品は、本件乙特許発明の技術的範囲に属しない。

四 よつて、被告製品が本件甲、乙各特許発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴各請求は、その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却する。

〔編註〕本件に関する物件目録は左のとおりである。

一、「物品名」 寝具乾燥自動車

二、図面の簡単な説明、第一図は寝具乾燥自動車の側面図であり側壁を欠削して内部構造を示す、第二図はバーナー室を乾燥室側から見た場合の正面図であり、第三図はバーナー室と乾燥室との間の隔壁の部分を乾燥室側より見た場合の正面図であり、第四図は後部ドアーを取去して乾燥室の後部より見た場合の正面図であり、第五図はバーナーと熱風函と熱風案内器の接続関係を示す平面図であり、第六図はハンガーの使用状態を示す側面図であり、第七図は排気孔部分の縦断面図であり、第八図はハンガーストツパーの正面図であり、第九図はハンガーの斜視図であり、第十図はバーナーの移動装置を示す斜視図である。

三、寝具乾燥自動車の構造上の説明

図面に示す寝具乾燥自動車は前部に運転席と機関室とが有り後部の車台上に函型の乾燥室を造設し、随時随所に移動して寝具類を乾燥することを目的とする自動車である。

1は運転席と機関室とが有る運転席であり後部の車台2上に函型の乾燥室3が造設され、乾燥室3の前部で自動車の軸方向の直角位置に設けた隔壁4により更に乾燥室3(狭義)とバーナー室5とに区画しバーナー室5の上部にはL型をした棚板7で形成した物置室と計器室6とが有り、バーナー室5及び計器室6側には透視窓8が有るドアー9が開閉自在に蝶着され、ドアーの下部に吸気孔9´が開設してあり、物置室側には排気窓10が有る。

バーナー室5には燃焼筒11と邪魔板12とノーズル13と点火プラグ14及びモーター17で廻転するフアン15とエアーフイルター16と外筒18と電磁弁26とから成る一個のバーナーAが燃料タンク19上に取付けられ、該燃料タンク19は上向きコの字形をした移動板20に内装固定し移動板20は案内レール21上を移動し、移動板両側の摺動片22はボールト23とナツト24とでレールの案内片25に固定されるように成つていて、バーナーAは自動車の軸方向に対し直角方向に設けてある。計器室6には配電盤27と電気器28が有り、バーナーAの外筒18の出口は角形の熱風函29の入口と接触し熱風函29の出口は乾燥室底部の隔壁4の開口部に設けた扁平漏斗型をした熱風案内器30と接続し、熱風案内器30はその内部の三個の案内板31により熱風を第五図の矢印のように乾燥室3内に送風するようになつている。

Bは乾燥室3内に出し入れ自在にしたハンガーであり、L型に曲折した棒体32と32を小さい間隙を置いて並設し接続板33で接続したものを物掛け杆34として、同形同大の物掛け杆34を間隔を置いて相設し物掛け杆34とその下部の支承杆35との間に支柱36が立設してあり各棒体32の曲片37の下端を下向きコの字形をした台杆38と接続し台杆の両先端に車輪39が附設してある。40は物掛け杆34と支承杆35との間の前方に設けた前部支柱であつて支承杆35の先端42が前部支柱40より前方に突出してあり、前部支柱40の後面には熱風案内41が垂直状に取付けてある。43は前部支柱40間に廻動自在に橋架した横杆であり44は該横杆に固定した吊具であり45は車輪杆であり車輪杆の上端に車輪46が附設してある。

47は乾燥室3の天井に附設したチヤンネル型レールで前記の車輪46はレール47内を乾燥室の前後に移動するように構成され、48は乾燥室3内の床上に設けた受ロールであり受ロール48はハンガー下部の支承杆35を支承してハンガーの出し入れを円滑にしている。49は熱風案内器30上部の隔壁に設けたストツパー取付板でありハンガーの下部支承杆35の先端42を掛止するストツパー50が八の字状に取付けられてあり、51及び52は乾燥室天井に開設した排気孔であり、53は排気孔の蓋であり54は後部ドアーである。

四、動作の説明

前記のように構成した寝具乾燥自動車のハンガーBは被乾燥物の掛替時には後部ドアー54を開き第六図のようにハンガーを乾燥室外に引き出し、掛替を終つた時はハンガーを乾燥室3内に押し込んで乾燥するのであるが、このハンガーは前部を吊具44と車輪46で天井のレール47に吊下され、後部車輪39が床から外れると支承杆35が受ロール48で支承されるので出し入れが円滑に行える特徴が有る。またバーナーAの電磁弁26は乾燥室内に設けてある一定の温度で動作するサーモスタツトと電気的に接続してあるので乾燥室の温度が必要以上に熱せられると電磁弁が動作してバーナーを消火し、乾燥室の温度が低下するとバーナーに点火して熱風を送るようになつており、バーナーの消火中もフアンが回転しているので乾燥室の熱流がバーナーに逆流しないように成つている。

バーナーAより送られる熱風は熱風函29を経て熱風案内器30より乾燥室の後部に向けて吐出され熱風が乾燥室内で旋回気流となるので被乾燥物の乾燥効果が良好である。

バーナーの燃焼によつて温度が上昇したバーナー室5の空気は上昇気流となつて物置室側の排気窓10より外部に排出されるので、バーナー室側のドアー9の下部に設けた吸気孔9´より外部の冷気を吸い込み此の冷気がバーナー室と計器室を流れて排気窓より排出されるのでバーナー室と計器室の温度が冷却されて計器類に狂が生ぜずバーナーが不必要に加熱されることがない。

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